フィリピンにおける日本人結婚移住父親の教育観
JSA-Asean Conference, The 7th Biennial International e-Conference
- 日時:2021年12月15-17日
- 場所:オンライン学会
本研究ではフィリピン人と結婚してフィリピンに住む日本人男性の教育に関する言説がどのように構築されているかを分析する。これらの人々の検討は、国を超えた移住者のアイデンティティの変容がどのように行われているのかを知ることにつながる。しかし、これまでの研究では、母親の観点からの研究は多いものの、父親の視点からの研究は課題として残されてきた。この傾向は国際結婚に関する分野では特に顕著であった。そこで本研究では、フィリピンへの日本人結婚移住者へのインタビュー(2017-2021)により、これらの人々の教育観が、フィリピンへの移民と定住の複雑な過程でどのように構築されてきたのかを考察した。
本発表の考察では、 これらの人々の「学校選択」を教育に関する実践の複雑さを示すための軸として取り上げた。その過程では次のようなことが浮かび上がってきた。経済性や地理的な問題は学校選択の重要な指標となること。しかし、子供をマニラ日本人学校に通わせることは、子供を日本人として育てるという決意表明と解釈されることであり、その一方で地元の私立学校やインターナショナルスクールに通わせることは、将来アメリカ、カナダ、オーストラリアのような第三国への移住も含めたグローバル社会で活躍できるように育てることを念頭にしていたこと。また、英語はフィリピンの公用語であるにもかかわらず、英語学習はフィリピン国内での将来の可能性を確保されるということよりも、英語は将来のさらなる移住を可能とするものと理解されていたことなどである。
以上の分析の結果、親としてのアイデンティティについて、1)父親は伝統的な性別役割分担と現代的な父親像との間で苦しんでいる。2)父親にとっての子育てには、日本語を子供に教えることが含まれている。3)フィリピン居住の選好性は(部分的には)フィリピンは、子供や親自身がグローバルな経験を積むための場という理解に基づいている。4)多くの父親はフィリピンや日本の標準的な教育観からの逸脱に対する寛容性を示しており、国際結婚とそれに伴う移住が教育に対するより強い柔軟性に寄与していることなどが指摘できた。
発表では、日本におけるフィリピン観と、日本とフィリピンを含むグローバルな経済的な変化、フィリピン国内の英語学校の隆盛などとの関係についても触れたい。また、本研究は研究成果を漫画化するという実験的な成果還元法をとった。これについても発表時に共有する。